晴天乱流【PDF】
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発行日 : 2003.10.12(初版) / 2006.10.08(再版) 標準プリントアウト時 A6(文庫サイズ)/ 87ページ / 1MB ●TV本編を土台とし、戦闘能力や環境を少しアレンジして自分好みに仕上げたシリーズの第3作。16歳~28歳の間のお話を収録した短編集。 ●カップリング未満~すっかりできあがってる二人まで(笑)。 ●収録作品は、Webサイトからの再録を含む以下の6編。 一願二想 はじめてみよう カサ ノ ウチガワ 時めぐる君がため 雨不破塊 晴天乱流
〔本文見本〕
「ドジったなぁ…」 頭上を見上げて当麻は呟いた。 すっかり日の暮れた空は濃い灰色の雲に覆われ、そこからは途切れることなく冷たい雨が落ちてくる。小降りになったところを狙って駅を出た筈だったのに、気づけばそれはみぞれ混じりになっていて、傘を持たない当麻の髪を肩を乱暴に凍えさせていた。 前方には緩い上り坂。人通りは殆どなく、街灯も少なく暗い。その光景だけでも陰鬱な気分になるというのに、冷えた体が疲れを訴え始め、更に足取りを重くさせる。そして強い向かい風。 しかめ面でそれをやり過ごしてから、寒さに堪えかね半ばやけになって駆け出す。だがぬかるんだ道の走りにくさに、すぐにげんなりとして徒歩に戻した。 すると、背後から近付く足音が聞こえた。何故今まで気づかなかったのかと思うほどそれは近く、少なからず当麻は驚く。この道をこの時間にこの雨の中走る人物。それは自分を見つけて追いつこうとする同居人か、暗がりで自分を刺そうとする危ない人か、それとも何がなんでもジョギングをしなければならないと思い込んでいる向こう見ずなスポーツマンか…。 ふざけた考えをめぐらせつつ振り向こうとしたその瞬間、ぐっと肩を掴まれ引き戻された。 「こらっ。やると思ったぞ」 わあぁっ、と当麻はみっともなく大声を出す。振り返って見た夜道には、鞄と傘を手にした征士の怒りとも呆れともつかない表情が待っていた。 「…って、おどかすな!」 通り魔じゃなくてよかった。 激しい動悸をなだめつつ、当麻は頭の半分でそんなことを思う。ある意味通り魔より怖いけど、とは口が裂けても言えないことだ。 「どうしてお前はいつもいつもそうやって雨の中を歩くのだ」 差し掛けられた傘の下。やっぱり小言付きだよな、と内心当麻は苦笑する。 「違うって、電車ん中にカサ忘れたんだってー」 「馬鹿者が。途中で買うぐらいできただろうが」 そう言いつつも、征士は手袋で当麻の髪についた水滴を払う。そうしてそれだけに留まらずハンカチを取り出して広げるのに、当麻はくすぐったい気がして揶揄するように笑った。 「お前さ、他の奴にもこんなことするか?」 「ほか?」 聞き返すと、伸とか秀とか遼とか、と当麻は付け足す。 「遼にはするだろうな。伸と秀は…そもそもこんな真似はしないだろう」 「あー…そうかも」 伸はもちろん、ああ見えて秀も実にしっかりしている。自分の体がどこまで耐えられるかをきちんと知っているから、それ以上の無茶はしない。例え濡れたとしても、 「ああオレ、タオル持ってっから」 と言ってさっさと拭き始めるタイプだ。そういう部分は、意外にも、戦いを終えて一緒に暮らすようになってからそれぞれに気づいたことだった。 そんな仲間たちの性格を考えて少しの間当麻は黙っていたが、髪を拭き終えた征士が当麻の肩を使って自分のハンカチを畳み始めると、その手を眺めながらふと思い立って口にした。 「あ、でも、何か良くない?」 「何がだ」 「ナチュラルに相合傘」 軽く頭上を指差して、平和そうな笑顔を当麻が浮かべる。対する征士は目を合わせて黙ったまま、表情も無く数秒を過ごした。そして何事もなかったかのように、当麻のコートとその上に無造作に巻かれているマフラーとに、畳んだままのハンカチを滑らせた。 あれ、却下かな? 当麻が思い始めた頃、 「持て」 と征士は傘を差し出した。それまで鞄と一緒に左手で持っていたものだ。 「ん」 当麻が受け取る。その横で鞄を脇に挟み、濡れた大判のハンカチを両手で絞る。だがそうしても濡れていることには変わりがない。渋々といった様子でコートのポケットにしまうと、ようやく空いた手で征士はこぶしを握った。 「…ってぇ――」 途端に当麻が頭を抱える。 「まったく……馬鹿者が」 言うと同時に傘をひったくり、征士はすたすたと歩き出す。 「何だよ…」 「うるさい」 また大粒のみぞれの中に放り出されそうになり、慌てて当麻も横に並んだ。