銀の森【PDF】
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発行日 : 2010.10.10 標準プリントアウト時 A5 / 24ページ / 22MB ●オリジナル設定(和風ファンタジー風味)のお話です。 ●登場人物は征士、当麻、ちょこっと伸。 ●本当は『光の咲く森』というお話の後日譚、という位置づけの作品ですが、本編よりも先に発行してしまいました(^_^;)。本編なしでもわかるように書いたつもりですが…どうでしょうか? ●カップリング本ですが作中ではあまりいちゃいちゃしておりません、ご了承ください(笑)。 ●A5判の書籍をPDFにしたもので2段組になっています。そのためスマホなどでは読みにくいと思います。PC・タブレット等での閲覧に適した作りとなっていますのでご了承ください。
〔本文見本〕
この部屋には時計がない。当麻がそれに気づいたのは、征士と共に夜を過ごすようになってからだ。いつでも若い畳の匂いのする部屋の中、征士の静かな寝息と家の周囲を吹き抜ける風の音だけが当麻の鼓膜を揺らす。だが、激しい風さえなければ長く寝息を漏らすのは当麻のほうで、一人で目覚めては征士が寝ていた筈の空間に腕を伸ばした。 征士の体内時計は正確だ。特に朝は、夜明けと共にぴたりと目覚める。 「光だからな、私は」 薄く笑う彼に、そういえばそうだったと今更ながらに納得して当麻は苦笑した。目を細めた征士が、当麻の群青色の髪をそっと梳いた。 この地に住まう土地守。地上にある数多くの守護地のひとつを長く見守り続けてきた光の一族の一人。それが征士だ。その時間の終焉を前に、次の土地守としてやってきたのが風の一族の当麻だった。 まだ当分はここにいる、と征士は言った。聞いたとき、当麻はほっと息をついた。一人でいるのは構わない。むしろその自由さを当麻は好む。ただ、征士と離れるのが惜しかった。怜悧な容貌に似合わず愛情深いことを知り、差し伸べられる手の優しさを知ってしまった。その光のもつ暖かさを失いたくなかった。 二千年ここで暮らした、と征士は言う。人とよく似た姿形をしてはいるが、もとより人間とは違う存在だ。種族は光と風、その他に大地、水、炎。それぞれがそれぞれに見合った歳月をこの地で過ごす。征士の言う「当分」がどれほどにあたるのかは誰にもわからないことだ。 「今日は少し北のほうを見てくる。留守を頼む」 このところ毎日のように征士は出かける。山が騒がしいのだと漏らすが、その原因がはっきりしないらしい。珍しいことだ。 「皆の声がよく聞こえない。聞こえても、何を言っているのかわからないのだ」 困惑の表情で天を見上げる。空は青く澄んでいた。陽の光は変わりなく降り注いでいた。 征士の背を見送ってから、当麻も意識を澄ましてみる。新参者の当麻にはまだ土地の声が聞こえない。草花も虫も沈黙し、ただ、木霊のざわめきが感じられるのみだ。